北谷町の地名 -戦前の北谷の姿-
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小字の表記と読みところで、北谷村内の大字の名称表記は、漢字表記も日本語での読みも固定化されており、戦前も戦後も一定の表記が広く定着している。一方、北谷村内の小字名は、大字名にくらべて、表記も読みも時期によって揺れがみられる。原因は、沖縄県において明治期から現在まで続いている、言語表記法の揺れにあるといってよいだろう。小字名は、沖縄県の土地が日本政府の管理制度に組み入れられる過程で作られ、日本政府のつくる文書のなかで使われることを想定されていることから、本質的には日本語の単語である。しかしながら、小字名はほとんどの場合、琉球語の地形語や地名から命名されており、琉球語の地形語や地名が持つ歴史や、琉球語としての発音と強い結びつきを保っていた。そして、小字名の制度が沖縄県に導入された明治期後半の沖縄県は、主要な言語であった琉球語に、おもに公的な場面での書きことぼや話しことばとして、日本語が急速に入り交じるようになっていたが、この入り交じって使われる琉球語と日本語とを自由自在に表記できるような、合理的な表記方法は定まっていなかった。結果、小字名を文字表記するには、琉球語向けの規則と日本語向けの規則がごちゃまぜに適用された。方言語量の意昧に対応する漢字・かなを用いられるかと思えば、方言語藁の音のほうだけを重視して漢字・かなをあてることもあり、そして一つの小字名のなかでこの両者を組み合わせることもあった。このように小字名ごとにばらばらな基準で表記が確定されると、今度は漢字表記された小字名を音読みで読むのか訓読みで読むのか、方言的に読むのか日本語的に読むのか、というような、読みに関する問題もうまれたのである。この節では、北谷町域内の小字名について、漢字ではどのように書き、方言としてはどのように読んでいるか、『北谷町史第1巻付録』から小字名の漢字表記と小字名の方言読みを引用して一覧として示すことにした。また、この小字名の一覧には、今回の「北谷町の陸地地名」調査で聞取りされた情報から、小字ごとの土質と土地利用状況、小字名の由来と思われる地名などの情報を付け加えた。凡例地籍字北谷一一一①1 安良波原(アラハバル)一一一③② 方言語形はアラハパル〈北谷ヌ掘取〉。質用物土利作2 佐阿天原(サーティンバル)土質ジャーガル、砂地「チャタンヌメ一ヤードゥイ(北谷ヌ前屋取)の話者によれば、戦前はサーテンパル、利用畑地|⑤ サーティンパルのような呼び名は使っていなかったという。海沿いは砂地だった。rAi,,_ ....... 吐ノ作物」①所属地籍字名②小字番号③小字名の漢字表記()内は方言読み⑤土質と土地利用④今回の調査で確認された情報。〈集落名〉は、その方言語形を回答した集落名。404

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