北谷町の綱引き
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発刊によせて私たちは、伝統芸能・行事の継承・発展という言葉をよく耳にする。しかし、それを実現したという話はほとんど聞かない。正に言うは易く、行うは難しである。伝統芸能・行事の証言者が次々に他界、あるいは高齢化し、さらには終戦を境に日々社会状況が激変していく中において怯やはり聞き取り調査にも一定の限界があるのは確かだろう。しかし、この程発刊された本調査報告書にはその影響は少しもない。聞き取り調査は北谷三ヵ村を中心にしながらも、他集落までも調査の範囲を広げ、比較検討するという徹密な調査にただただ驚嘆している。その調査項目を見ていますと実に多様だ。「綱の材料と綱の形態J「備え・示威行為Jr衣装Jr綱の引き方Jr組織Jr祭記儀礼Jなど実に多岐に渡っている。調査員の方々の苦労が偲ばれる。1ページ、1ページ読み進めていくと、往時の人々の熱い,思いが伝わってくる。五穀豊穣と無病息災を祈願し、旗頭を天高く掲げ、綱を引き合った村人たち。村落共同体の意識に堅く結ぼれていた当時、“綱引き?は村人だちをさらに堅く結束させた強い粋の祭事であったことがひしひしと伝わってくる。私たちの先祖が何を想、い何を願ってきたか、数百年の時空を超えて伝わってくる。ところで、地域に伝わる伝統芸能や行事はその地域の歴史と文化に根ざした貴重な歴史的遺産であるばかりか、その地域の将来の文化の向上発展の基礎をなすものであると言われている。従って、この伝統芸能や行事は地域独自の歴史・文化環境を形作る重要な要素であり、今後の個性豊かで活力に満ちた本町の町づくりには欠かせないものである。私たちは、本報告書を我が町の文化の活性化に役立てると共に、先人たちの信仰習俗を理解するテキストとして活用し、さらにはそこに盛られた調査の成果を我が町の民俗文化財として、来る21世紀へ継承していきたい。最後になりましたが本調査報告書を立派に完成させていただきました沖縄国際大学の平敷令治先生、調査員の方々、そして聞き取り調査にご協力いただきました証言者の方々に心より厚く感謝と御礼を申し上げます。平成12年3月31日北谷町教育長嘗山憲一

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